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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)3349号 判決 1999年5月25日

神戸市垂水区日向二丁目六番一八号

控訴人(一審原告)

古川特許販売こと

古川尚子

右訴訟代理人弁護士

竹本昌弘

東京都文京区湯島二丁目二四番一一号

被控訴人(一審被告)

株式会社日本医療器研究所

右代表者代表取締役

田尾延幸

右訴訟代理人弁護士

福島等

小川芙美子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の蛇口用石鹸袋を製造及び販売してはならない。

3  被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の蛇口用石鹸袋を廃棄せよ。

4  被控訴人は、控訴人に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する平成八年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(原審における請求では、遅延損害金の起算日が平成八年一一月二六日であったものを、当審において、訴状送達の日の翌日である平成八年四月一六日に遡らせたため、その限度で請求が拡張されている。)

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

(以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」という。)

第二  当事者の主張

一  当事者の主張は、次に付加、訂正するほか原判決三頁八行目から二一頁三行目までのとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正等)

1 原判決七頁九行目の「原告商品」の次に「及び原告商品表示」を加える。

2 原判決八頁七行目の「認識されていた」を「認識され、その結果、原告商品表示は周知性を取得した」と改める。

3 原判決一五頁八行目の「第五回口頭弁論期日の翌日である平成八年一一月二六日」を「訴状送達の日の翌日である平成八年四月一六日」と改める。

二  当審で追加された原告の主張

1  被告の債務不履行について

被告は、原告商品をカタログに掲載して販売するという契約をしたのであるから、右カタログを見て注文してきた客に対して商品を供給していくことは当然のことであって、商品供給義務があるというべきである。

2  被告の不法行為について

本件は、原告と被告との間に原告商品の売買基本契約が七年間継続しており、被告は、原告商品が、原告の開発にかかる主力商品であることや、どのような宣伝文句で営業活動を行っていたかについて、十分に知っていたにもかかわらず、一言の断りもなく、原告商品の模倣商品を安価に発売し、しかも、原告が使用していた宣伝文句をそのまま利用し、原告商品との誤認防止措置もとらないで販売活動を始めたものである。

被告のこのような行為は、原告商品の供給契約関係にない同業他社が模倣品を発売した場合と異なり、著しく不公正な方法による取引であり、信義則に照らして、自由競争の範囲外の違法な行為というべきである。

三  原告の当審主張に対する被告の反論

1  原告の当審主張1について

カタログに掲載した商品について、右カタログを見て注文してきた客に対して商品を供給しなければならないのは、被告の右客に対する義務であって、原告に対する義務とはいえない。

2  原告の当審追加主張2について

原告と被告との間に、売買基本契約なるものは存在しない。

また、原告独自で年間五万箇所へのダイレクトメールを発送したとは考えられず、むしろ、被告が、原告の販路を拡大し、売上を増大させた。それにもかかわらず、原告は、被告の得意先の多い地域にダイレクトメールを送付し、被告のカタログに記載された定価より安い価格で原告商品を販売しようとしたもので、むしろ、原告に背信的行為があったというべきである。

被告が、原告から原告商品の購入を中止し、被告商品を製造販売するようになったのは、原告の右の行為が原因である。

第三  証拠

原審及び当審各訴訟記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告が、原告商品を開発し、これを製造販売するようになったこと、昭和六三年以降、被告が、カタログ販売で原告商品を取り扱うようになったこと、原告と被告との間で販路についての紛争が生じたこと、被告が独自に被告商品を製造販売するようになり、原告商品を取り扱わなくなったことについては、次に付加、訂正するほか、原判決二一頁七行目から三〇頁一行目までのとおりであるからこれを引用する。

(原判決の訂正等)

1  原判決二六頁七行目の「一九〇円」を「一八〇円」に、同頁七行目から八行目にかけての「三三〇円」を「三〇〇円」に、同頁八行目の「することにした」を「することにし、平成三年九月一日から一個一九〇円に改訂した(小売単価については一個三三〇円に改訂した。)」に各改める。

2  原判決二七頁二行目の「カタログ」の前に「昭和六四年版から平成七年版」を加える。

3  原判決二七頁一〇行目から末行にかけての「一七〇〇円」の次に「(一個三四〇円)」を加える。

4  原判決二八頁六行目の「小売価格を」を「セット価格を平成七年版カタログから一六五〇円に」に改める。

5  原判決二八頁七行目の「三月」の次に「一八日」を加え、同頁八行目から九行目にかけての「平成七年・・・いなかった」を「特許出願の日から七年後の平成五年三月一八日までに出願審査の請求がなされておらず、右特許出願は取り下げたものとみなされているものであった(特許法四八条の三第四項)」と改める。

二  原告商品の形態の商品表示性・周知性について

当裁判所も、原告商品の形態が商品表示性を取得したことはなく、その余の点について判断するまでもなく、不正競争防止法に基づく原告の請求には理由がないと考える。

その理由は、次に付加、訂正するほか原判決三〇頁一〇行目から三七頁四行目までのとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正等)

1  原判決三一頁五行目の「である」を「防止法二条一項一号に該当する」と改める。

2  原判決三三頁二行目、同三五頁末行の「業者」の次にいずれも「で」を加える。

3  原判決三六頁四行目の「余り」を「、技術的な側面を除くと」に改める。

4  原判決三六頁八行目の「ものとはいえても」を「役割を果たすとしても、その形状が縦約一センチメートル、横約二センチメートルの目立たないものであることに照らすと」に改める。

三  被告の債務不履行について

1  原告は、被告に対して原告商品を販売していた契約について、<1>被告の作成頒布するカタログに原告商品を掲載して販売すること、<2>原告は、受注の都度卸値で継続的に被告に原告商品を売り渡すこと、<3>右取引関係は特段の事情のない限り毎年自動更新されることを内容とする継続的売買契約を締結したから、被告は、右契約により、原告商品を仕入れてその販売促進を行う義務があると主張する。

2  しかし、被告は、昭和六三年夏ころから、原告商品を購入するようになったが、その後、被告が購入を中止するまでの間、両名の間で、原告商品の売買に関する基本契約が締結されたことすらなく、前記<1>ないし<3>の内容の継続的売買契約が締結されたことを認めるに足る証拠もない。

しかも、前記一において引用した原判決に記載のとおり、原告と被告との間で行われた取引では、被告の最低購入数、販売目標数、被告の主要販売地域、取引継続期間、期間更新の条件、カタログ掲載の方法、原告と被告と販売先の分担などを取り決めて卸売り取引を開始したわけではなく、また、その取引形態は、被告がカタログ販売を行っていたため、カタログ編纂の時期である毎年六月ころ、原告から商品の卸値価格の提示を受け、大量に一括購入するという取引形態がとられていた。販売数も、平成元年に一万個であった取引が次第に増加していったものの、その都度、被告の注文に応じたというのみに過ぎないものである。

むしろ、原告は、被告の代理店の販売先(最終需要者である学校)に対し直接販売をし、被告の求めがあってもこれを止めなかったことが認められる。

そうすると、被告が原告に対し、原告商品の販売促進義務を負い、一方的に、原告商品の取扱いを中止してはならないといった義務を認めることはできないというべきである。

他に、被告が原告から原告商品を継続して購入しなければならない義務を認めるに足る主張、立証はない。

3  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張する販売促進義務を認めることはできず、右の債務不履行を原因とする原告の本件請求は理由がない。

四  被告の不法行為について

1  原告は、被告の販売促進義務というものが認められないとしても、原告と被告との取引経過や原告商品の取引実態に照らせば、被告は原告の特約店ともいうべき地位にあったから、被告は、原告商品の類似商品を製造販売して原告の営業上の権利を害さない信義則上の義務を負っていたというべきであるから、本件競合行為は不法行為に該当すると主張する。

しかし、原告商品は、特許権や実用新案権としての保護の対象となっていたわけではなく、これと類似する商品の製造販売が不正競争防止法に抵触することがない以上、営業の自由、自由競争の原則の下に、被告において原告商品に類似する被告商品の製造販売が許されると解される。

そして、前記一に引用した原判決記載のとおり、原告は、被告の埼玉県下の大口代理店の販売先に対し、被告の定価(五個二〇〇〇円)より安く直接販売を行い(五個一六五〇円)、被告が埼玉県内についてだけは原告による通信販売を止めるよう求めたにもかかわらず、右要求を拒絶したことにより、被告はやむなく定価を同額の五個一六五〇円に引下げることとしたことが認められ、右の事情に照らすと、被告が原告の特約店ともいうべき地位にあったとは到底いえず、むしろ、右のことが、被告が独自に被告商品を製造販売することになった原因であると推認される。

なお、原告は、被告との取引開始後も、地域を限定することなく、通信販売を継続するということが予定されていたと主張するが、仮に、そうであるなら、前述した営業の自由、自由競争の原則が適用されることは当然というべきである。

2  当審追加主張について

原告は、被告との間で原告商品の売買基本契約が七年間継続していたにもかかわらず、被告が、一言の断りもなく、原告商品の模倣商品を安価に発売し、しかも、原告が使用していた宣伝文句をそのまま利用し、原告商品との誤認防止措置もとらないで販売活動を始めたことは、著しく不公正な方法による取引であり、信義則に照らして、自由競争の範囲外の違法な行為というべきであると主張する。

しかし、原告と被告との間で、原告商品の売買基本契約なるものが存したと認めることができないのは前述のとおりである。

また、被告商品が原告商品に類似していることは、原告主張のとおりであるが、もともと被告製作のカタログには、原告の製品であるとの表示はなく、また、原告商品の形態に商品表示性のないことは前述のとおりであり、誤認防止の措置を取らなかったことが、直ちに違法であるとはいえない。

被告は、原告が原告商品のパンフレットに、原告商品の特徴として、「<1>石けんがきちんと管理できます。<2>石けんの補充が簡単にできます。なくなったら上からポンと投入するだけです。<3>ステンレスでさびません。丈夫なナイロン製の網で長持ちします。手洗い指導の徹底と石けんの管理に効果を発揮します。」と記載していた説明文(甲二)とほぼ同内容の文言を、原告商品を被告製作のカタログで取り扱う際に使用していたが(甲三、乙一ないし六、原告の承諾があったものと考えられる。)、原告商品の取扱いを止め、被告商品を掲載するようになってからも、右の文句を流用したことが認められる(甲四、一六)。しかし、右の文言自体、原告及び被告商品の機能と効用を説明するものに過ぎず、これを流用したからといって、直ちに不法行為を構成するとは考えられない。

3  したがって、被告が、原告商品の類似品というべき被告商品を製造販売することが、原告との公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法をもって、原告に営業上の損害を与えたとはいえず、その余の点について判断するまでもなく、原告の営業上の権利を害さない信義則上の義務違反という不法行為を原因とする原告の本件請求は理由がない。

五  結論

以上のとおり、原告の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、民事訴訟法六七条、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 山田陽三)

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